「火の十字架」(横溝正史)

「魔女の暦」と対になるべき作品

「火の十字架」(横溝正史)
(「魔女の暦」)角川文庫

金田一耕助に届いた
一通の手紙には、
これから起こるであろう
殺人が予告されていた。
手紙が示す浅草パラダイスに
駆けつけていた金田一と
等々力警部の目前で、
運ばれてきたトランクの中から
全裸の女が見つかる。
犯人は一体…。

先日取り上げた横溝正史「魔女の暦」
併録されている一作が、
その2年後に書かれた
本作品「火の十字架」です。
金田一に届いた犯罪を予告する手紙、
指定の場所がストリップ劇場、
そして浅草…。
併録されるだけあって、「魔女の暦」との
共通項がたくさんあります。
もちろん浅草署の捜査主任・
関守警部補も再登場です。

【主要登場人物】
星影冴子
…浅草・新宿・深川のヌード劇場経営者
 兼ダンサー。立花・滝本・三村の
 三人を情夫としている。
立花良介
…浅草パラダイス・マネジャー。
 死体で発見される。
滝本貞雄
…新宿パラダイス・マネジャー。
三村信吉
…深川パラダイス・マネジャー。
富士愛子
…パラダイスのダンサー。
 殺害される。
小栗啓三
…謎の男。復員服。片脚は義足。
花園千枝子
…劇団南十字星のヒロイン。故人。
関森警部補…浅草署捜査主任。
等々力警部…警視庁警部。
金田一耕助…私立探偵。

本作品の味わいどころ①
顔のない殺人、殺されたのは一体…

殺害された立花良介は
塩酸で顔や身体を焼かれ、
判別不能の状態で発見されます。
横溝得意の「顔のない死体」です。
「顔のない死体」の本質は、
「犯人と目されている人物が
実は被害者」という
一つの定石があります。
横溝はいつも読者のその裏をかく
アイディアをぶつけてきます。
本作品においても同様です。
殺されたのは一体誰で、
殺したのは一体誰なのか、
最後まで読まなければ
わからない仕組みです。

本作品の味わいどころ②
爛れた関係、その真相は一体…

「魔女の暦」同様の爛れた人間関係を
下地にした作品です。
「魔女」では三人の舞台関係者と
三人のダンサーが内縁関係にある上、
女三人は一人の若い男を
共有するといった
怪しい関係を創り上げていました
(本編を読み進めると
もっと複雑なのですが)。
本作品では冴子一人が
三人の情夫をそれぞれの劇場に配置し、
一週間ごとにそれぞれのもとで
生活するという「女王様」。
何か起きないはずがありません。
しかしその人間関係はもっと
複雑怪奇であることが判明します。

本作品の味わいどころ③
明らかになる事実、犯人は一体…

終盤、たたみかけるように
金田一が証人を繰り出し、
事件の真相を明らかにしていきます。
次から次へと現れる衝撃の事実。
本作品は
犯人捜しやトリック解明といった
読者参加型ではありません。
その筋書きの面白さを
堪能すべき作品です。
では犯人は一体…?
その意外性にやはり驚かされます。

「魔女の暦」と
対になるべき作品だと感じます。
同じような冒頭から、
まったく異なる人間関係が
あぶり出されます。
長らく絶版状態でしたが、
復刊された今こそ
存分に味わいましょう。

(2022.3.4)

M HarrisによるPixabayからの画像
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